師匠の音色

「大阪教育大学教養学科芸術専攻音楽コース」

少し長い肩書ですが、私が在籍し、卒業した母校です。

その母校では、数年前から弦楽器専攻の学生募集が停止され、現在4年生のヴァイオリン専攻生が最後の学生となります。ちなみに、チェロやコントラバスの専攻生は、もう何年も在籍していません。

弦楽器専攻がなくなるということは、オーケストラの存続にも関わります。

昨日、母校のオーケストラ最後の定期演奏会が行われ、私も卒業生として、久し振りに母校のオーケストラに参加しました。

指揮者の下野さんの素晴らしい御指導のもと、プロのオーケストラで活躍されている大先輩や、フリーランスとして第一線で活躍されている先輩・後輩、学生時代に同期だった素晴らしい歌声のバリトンのソリストと一緒に、最後の定期演奏会に参加できたことは、私にとって感慨深いものでした。

その中でも、やはり私にとって大きな存在だったのは、学生時代の4年間、チェロを学ばせていただいた師匠です。

現在は退官されていますが、今回の演奏会にも名誉教授として参加してくださいました。

リハーサルから本番までの4日間、私は先生の真後ろで弾かせていただきました。

改めて感じたのは、先生には先生にしかない魅力があるということです。

それは、チェロの音であったり、音楽に対する深い洞察力であったり……。私が軽々しく言葉にするのも憚られるほどのものです。

大学卒業後、国内外のさまざまなチェロの先生に学び、多くの演奏会にも足を運んできました。それでも、学生時代に耳に残っていた先生の音は、私の中に強烈な印象として残り続けていました。そして今回、その印象が少しも色褪せていないことを、改めて実感しました。

学生時代には厳しい御言葉をいただき、苦しいと感じたこともありました。

しかし、自分自身が人にチェロや音楽を伝える立場になってみると、先生の厳しい御言葉の意味が少しずつ理解できるようになり、そのときの先生のお気持ちも想像できるようになりました。

長くなってしまいましたが、今回、先生のすぐ後ろで演奏させていただき、改めて思いました。

先生のように、他の誰でもない、自分自身の音と音楽を持った音楽家になりたい。

今回も緊張してしまい、先生とはあまりお話しすることができませんでしたが、こうして御一緒できただけで感無量です。

先生、ありがとうございました。

3度目の正直

今月末に、ギターの今村隆之さんとデュオコンサートを開催します。

メインの曲は、ブラジルの作曲家・ニャタリの《ギターとチェロのためのソナタ》です。

この曲を演奏するのは、今回で3回目になります。

正直なところ、過去2回の演奏は、私自身にとって決して満足のいくものではありませんでした。

変拍子、高音域、細かなパッセージ……。
技術的に難しい箇所が多く、本番中にも「ここは大丈夫だろうか」という恐怖心が頭をよぎっていました。

そのため、音楽に向かっていくというよりも、失敗しないように後ろ向きになってしまう。
そんな演奏になっていたように思います。

今回、この曲をもう一度演奏すると決めた時から、正直なところ「リベンジ」という気持ちがありました。

しかし、練習を始めるにあたって、過去2回とは曲との向き合い方そのものを変える必要があると感じました。

変拍子や高音域、細かなパッセージなど、もちろん技術的な準備は必要です。

でも、それだけではありません。

その難しさの奥にある、ニャタリの音楽的な意図をもっと深く探る必要があるのではないかと思いました。

例えば、ニャタリは4分の2拍子から8分の3拍子へと、何度も拍子を変化させます。

それを楽譜を見ながら「ここは4分の2拍子、次は8分の3拍子……」と頭で理解するだけでは、なかなか自然な音楽にはなりません。

なぜここで拍子が変わるのか。

その変化を自分自身の中で納得し、身体の感覚としても受け入れていく。

そうすることで、初めて自然な演奏につながっていくのだと思います。

この過程を丁寧に言葉で説明するのは、今の私の語彙力ではなかなか難しいのですが……。

最初は頭で考える。

そして、繰り返し音を出しているうちに、少しずつ心で感じるようになる。

最後には、それが身体の中に入って、考えなくても自然に音楽が動いていく。

そんな過程なのかもしれません。

昨日、今村さんとのリハーサルがありました。

前回の演奏と比べると、少しずつですが、音楽を身体と心で感じながら演奏できるようになってきたように思います。

ギターとチェロ、それぞれの音だけでなく、二つの楽器が重なった時の響きやハーモニーにも、以前より耳を傾けられるようになりました。

何より嬉しいのは、前回よりもアンサンブルそのものが楽しくなっていることです。

「失敗しないように」と身構えるのではなく、今村さんと一緒に音楽を作っていく。

その感覚が、少しずつ戻ってきているように感じます。

とはいえ、本番はまだこれからです。

気を緩めず、残りの時間もしっかり準備を重ねていきたいと思います。

3度目の正直。

今度こそ、この曲ともっと自由に向き合える演奏にしたいと思っています。

北村陽さんの思い出

北村陽さん、エリザベート国際コンクール5位入賞おめでとうございます。

最終結果が出るまで、インターネットで彼や他の参加者の演奏を聴いていました。どの方も素晴らしく、私の感覚からすると、まるで化け物のような技術と表現力を持った演奏家ばかりでした。

実は10年以上前、陽君(あえて昔の呼び方で失礼します)と接点があります。

私が宝塚のある音楽教室で教え始めた頃、前任のチェロの先生が突然退職されました。その先生に習っていた生徒の一人が、当時まだ小学校2、3年生だった北村陽君です。

先生がいなくなってしまったため、臨時で私がレッスンを担当することになりました。

ところが、既にサン・サーンスのチェロ協奏曲を見事に弾いており、私は大変驚かされました。正直なところ、レッスンをするというより、才能あふれる少年の演奏に感心していた記憶の方が強く残っています。

それ以上に印象的だったのは彼の人柄です。

子供の頃から大人顔負けの腕前でしたが、とても素直で礼儀正しく、周囲に対して自然な優しさを持っていました。

先日、久し振りに演奏する姿を拝見しました。

そこにいたのは、かつての天才少年ではなく、世界を舞台に活躍する立派なチェロ奏者でした。もちろん子供の頃から才能は抜群でしたが、その才能に甘えることなく努力を重ねてきたからこそ、現在の姿があるのだと思います。

エリザベート国際コンクールの結果については、ご本人にとって悔しさも残るものだったようです。しかし、まだ22歳。これからさらに進化し続けることでしょう。

今後の活躍を心から楽しみにしています。

そして、かつて小学生の陽君に驚かされた経験も、今では私にとって良い思い出になっています。